プロローグ

それは、少し前のことだった。

僕には少し前にはちゃんと他の子みたいにお父さんとお母さんがいた。
だけど、今はお父さんがいなかった。

あの日、僕はおばあちゃんと家を出た。

ランドセルを買いに行くためだ。 僕はまだ友達のような黒いぴっかぴかのランドセルを買ってもらっていなかったから僕は喜んで家を出た。

でも、そのときはまだ気づいてなかったんだ。

僕は、本当に、何も知らないまま、家を出てしまったんだ。

僕はおばあちゃんに「サンマンエンする」ランドセルを買ってもらった。 ぴっかぴかの黒いランドセル。 僕はそれを見て早く小学校に行きたくなった。

『サンマンエン』ってどれくらいかはよく分からないけどきっと高くていいものなんだなと思った。

帰ってくると、お母さんだけが家にいた。

お母さんは何も言わずにいつものように笑顔で
「お帰りなさい」
と言った。

そのとき、お母さんの顔によぎった悲しい悲しい影を僕はきっと忘れないと思う。

それから、お父さんは帰ってこなくなった――――

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